「……大事なものなんじゃ、ないの?」
「大事だよ。でもあげる。いいの、また描くから」
今の私にとっては、唯一颯を想ってすがりつくことができるものたちだ。
彼との二ヶ月を思い出させてくれる、大切な絵。
だけどこれらは、彼が『逃げて諦めた』証拠でもある。
『理央の手で、俺を描いてくれてありがとう。ここからいなくなっても、俺がこの高校に通ってたってこと、この絵が残しといてくれるって思ったら、なんか安心した』
ああ言ったとき、きっと颯は自分が消えたあと、もう二度と私の前に現れないつもりだったんだろう。
だから幻の姿だけでも絵に残した。
彼が、私に『本物』を描かせることを諦めた証拠。
颯がいなくなった世界で、私はこの絵たちを見つめて、思い出に浸ったりはしない。
……絶対、しない。
「どんな形でだって、もう一度颯とここに来るから。何度だって、連れて行くから!」
私に『諦めない才能』があるというのなら、それを信じよう。
たとえ颯が諦めても、私は諦めない。
海も駄菓子屋も公園も高校も、もう一度一緒に行く。本当の彼を描く。
今度は私が、会いに行くんだ。