たくさんの絵を前に、私は美術室でひとり泣いていた。
涙がこぼれては拭って、何度も繰り返す。
だけどふと涙を拭う指の隙間から何かが見えて、私は目を見開いた。
机越しに、『彼』は私を見ている。
私より少し背の低い、病院の服を着崩した男の子。
いつかに見覚えのあるその姿は、光を帯びて佇んでいた。
『彼』が誰なのか、私はわかってしまった。心のどこかで、納得にも似た気持ちが浮かんだ。
「夏の妖精…………」
それは、まだ中学一年生の頃の颯の姿で、そこにいた。
背が小さくて、幼くて。その男の子を、私は呆然と見つめた。
「………颯」
君も、こんな気持ちだった?
幼い頃の私が現れて。懐かしくて切ない、こんなにもたまらない気持ちになったのかな。
颯の姿をした妖精は、私を見つめておもむろに口を開いた。
「……大事なものくれたら、願い事を叶えてあげる」
身体に震えが走る。
怖いのかな。わからない。本当に彼は、こんなふうに。