階段を駆け下りて、廊下を走る。美術室のドアの鍵を開けて、勢いよく開けた。
息を整えながら、中へ入る。
そこは昨日となんら変わりない、どんな人間でも受け入れる白の壁で囲まれていた。
いつも私を安心させてくれていたはずなのに、どうしてか今はすごく切ない。
自分のロッカーに、おそるおそる手を伸ばした。
比較的小さなサイズの絵を入れている、青いファイルを取り出す。
ぺら、ぺら、とゆっくりページをめくった。
始業のチャイムが鳴り響く。私の手は震えながら、けれど確実にページをめくっていく。
そしてその絵が見えた瞬間、涙が出た。
「あった…………」
夜の海を背景に、笑う颯の絵。
残っていた。
今はこれだけ。颯が私と一緒に学校に通っていたことを、唯一証明してくれるもの。
一枚一枚、ファイルから取り出して、机に並べた。
すべて過不足なく残っていた。
海、駄菓子屋、公園。他にも、学校で描いた色んな颯の姿。
ぜんぶ、私が描いたものだ。
私が見た、颯の姿。