「ハシクラソウ……?ううん、知らない」


みんな知ってる?と、眞子がクラスメイトの女子たちに尋ねる。


みんな一様に首を横に振った。私は愕然とした。



まるでありがちな物語のお約束だ。


朝起きて学校へ来てみれば、彼がここにいた事実ごと消えていた。


『橋倉颯』は、はじめからこの高校に在籍していなかった。



『ごめん、ほんとごめんな。俺がいたのは、ほんの一瞬の夢みたいなものだよ。……明日には、ぜんぶ消える』



ぜんぶ、消える。


それは、こういうことだったんだ。



本当に幻のように、ひとときの夢物語のように、彼は消えた。



『………どうせあいつらも、忘れるんだよ。俺のこと』



以前彼が言っていた言葉は、自分を嘲っていたものじゃなかった。


彼はわかっていたんだ、こうなること。



太陽を失ったはずの世界は、今日も変わることなく回り続けている。


別の太陽をそこに据えて、今日も滞りなく回り続ける。


ただひとつの歯車を除いて。



「………冗談じゃない………」



私は呟いて、教室を飛び出した。