いつも大きな声で『颯』と呼び、自由人の颯に振り回されていた彼。
普段なら絶対に自分から関わろうとしなかった。だけど今は、そんなこと構ってられない。
「……あ、あの」
おそるおそる声をかける。男子は私に気づくと、少しだけ驚いた顔をした。
「なに?」
「あの……颯は、まだ来てない?」
聞くと、彼は黙った。周りの男子たちと顔を見合わせて、そして首を傾げた。
「『ソウ』って誰?」
……彼のその言葉が、どこか遠くに聞こえた。
身体がふるえる。上手く息ができない。
そんなはずない。知らないわけない。
だって昨日も呼んでいたじゃないか。『颯』って、呼んでいたじゃないか!
「は……橋倉颯だよ。同じクラスだから知ってるはず」
「橋倉って苗字の奴は、うちのクラスにはいないよ。他のクラスじゃねーの?」
必死に食い下がる私に、彼も戸惑った顔をする。冗談を言っている顔じゃない。
うそだ。
颯は私の隣のクラス。そして彼らは颯の友達だった。
いつも彼を囲んで笑っていたのに、はじめから存在しないだって?