「俺のこと、たくさん描いてくれてありがとう。綺麗な景色の中に残してくれてありがとう。好きだよ、理央」
私もだよって。
言おうとして、声が出ない。
颯の身体は、もう半分以上消えていた。ちゃんと私を抱き締めているはずなのに、姿が見えない。
「まって、颯。いやだ、まだ……」
「ごめん、ほんとごめんな。俺がいたのは、ほんの一瞬の夢みたいなものだよ。……明日には、ぜんぶ消える」
うそ。
信じられなくて、信じたくなくて、すがるように彼の目を見た。
だけど颯は笑ってくれない。私を安心させるため、頭を撫でてはくれない。
「じゃーね、理央」
『また明日』って。
言ってよ。いつもみたいに。
星屑のように、きらきらはじけた水しぶきのように。
颯の身体はあっという間に透けていった。彼のすべてが見えなくなったと同時に、音もなく光の粒が広がった。
彼が消えた屋上で、私はひとり泣くこともできず立ち尽くしていた。
太陽を失った景色は暗くて、冷たくて、すべてが色褪せている。
世界は、動きを止めた。