お母さんは覚えていない。


だけど私は思い出した。


あの夏の記憶を。


毎日のように彼に会いに行った、あの日々を。



「………颯………」



か細い声で、名前を呼んだ。そうしたら頭の中にどんどん記憶が流れ込んできて、涙が出てきた。


『私は、ついこの前まで颯のことを知らなかった』?


違う。知らなかったんじゃない。


忘れていたんだ。


私だけ忘れていた。あの日々の、思い出ごと。







中学一年生の夏、おじいちゃんが入院して、家族でお見舞いに行った。


病室にはおじいちゃん以外の患者さんもいて、なんとなく緊張した。


おじいちゃんと少しの間話をして、おじいちゃんが眠ったあと、家族は売店に買い出しに行った。


私はなんとなくその場に残って、おじいちゃんのベッドの横に椅子を置いて座っていた。


そうしたらなんだか眠くなってきて、うとうとしていたら、突然肩を叩かれた。