「このくらいなら、他にも描ける人、いっぱいいる」
私くらいのレベル、何万人もいるよ。
橋倉くんに羨ましいなんて言ってもらえるほど、上手くないよ。
「………………」
橋倉くんは、驚いた様子で私を見ていた。
こんな風に返されるなんて、思っていなかったんだろう。
自分でも、卑屈になっているのはわかっていた。だけど素直に『ありがとう』なんて返せなかった。
橋倉くんは悪くない。
ひねくれてる、私が悪いんだ。
彼の手から画板をもらおうと、手を伸ばす。それは抵抗なくスッと彼の手から離れて、私の手に戻ってきた。
橋倉くんは、何も言わない。
何も言わず、私を見つめていた。
その視線から逃げるように、頭を下げる。
「………ごめん。助けてくれて、ありがとう」
それだけ言って、踵を返す。だけどすぐに、後ろから彼の声が聞こえた。
「俺は上手いって思ったよ。中野さんの絵」
……なんで、名前。
思わず振り返ると、彼は真剣な目で私を見ていた。