彼と出会ってから、同じような違和感がずっと続いている。
私はそれを、今まで見ないふりしてきた。知ってしまったら、もう戻れない気がしていた。
彼が突然消えたあのときのような恐怖を、もう一度味わうことになりそうで。
………だけど。
「理央ー!もう帰ろうぜー」
筆で青と黄色の絵の具を混ぜたところで、颯が私に声をかけた。
狭まっていた視界が明るくなって、周りが見えてくる。
美術室の窓の外は、もう真っ暗だ。
時計は午後六時半を回っていた。
「………あ。気づかなかった…………」
「マジかよ……。あんま集中しすぎも良くないんじゃないの?大丈夫か?」
「だ、大丈夫。なんか楽しいし………」
まだ文化祭で描く場所は決まっていない。
だから描きたいと思った場所を手当たり次第描いているのだけれど、工夫すべき点がどこなのかわかった途端、風景を描くのが前よりずっと楽しいのだ。
「ふーん……楽しいなら、いいけどさ。とりあえず今日は帰ろーよ」
「うん」
わたわたと片付けをはじめる。先輩は早くに帰っていたから、今美術室にいるのは私と颯だけだ。