「わ、たしね。昔から、風景描くのが好きだったの」



ぐずぐず泣きながら話し始めた私を見て、颯が小さく笑って「うん」と言った。



「この景色がすごく綺麗なんだよって、ここに行ってみようよって、私の絵を見て、伝えたくてー………」



言って、あれ?と思った。




伝えたかったのは、『誰』?




私がそれを伝えたかったのは、誰だ?


いちばん最初に『ここに来たい』と思ってほしかったのは、誰だったっけ。


私が風景を描くようになったのは、何がきっかけだっただろう。


私はどうして、風景を描いている?



見つけたはずの答えは、もうひとつ抜け落ちた穴の存在を私に教えた。


涙の引いた瞳で、こちらを心配そうに見つめる颯を見上げた。



………まだだ。

まだ、答えは見つかっていない。



私は何かを忘れている。



大切な、大切な何かを。


わずかに開いた唇の隙間から、「ソウ」と声が漏れる。