「俺はさ、絵のことは、よくわかんないけど。色んなとこにいくたび、気づいたらきらきらした目で理央が絵描いてて、そういう理央をいいなって思ってた。本当に絵が好きなんだなって」


静かに、語りかけるように。颯は優しい目をして、私に言う。



「理央が描く風景が好きだよ。その中にいる人も、みんな生き生きしててさ」



見上げると、またあの切ない笑顔が見えた。


ぎゅっと胸が締め付けられる。彼の手が心地よく髪を撫でる。


颯は静かに目を閉じた。


少しの間、彼は黙っていたけれど、やがて再びまぶたが上がった。


私はその様子を、涙の浮いた瞳で見つめていた。



「……理央の絵の中にいる自分を見て、ずっとここにいたいって思った。理央の描く風景には、『ここに来たい』って思わせる力があると思うよ」



パキ、と。


耳の奥で、音が響いた。いや、頭の奥だったかもしれない。遠いどこかで聞こえた音だったかもしれない。


閉じられていた蓋が、こじ開けられたような、そんな音がした。