「あれ、風景描いてんの?」



イーゼルに立てかけられた絵を見て、颯が驚いた顔をした。


最近、美術室にいるときは静物画ばかり描いていたからだ。



「……うん。なんか、描いてないと落ち着かなくて」



今描いているのは、見慣れた美術室の風景。


長机と椅子が並べられ、前には黒板があって。横には棚があって、壁にはたくさんの絵たち。


大切な場所だから気分も乗るかと思ったけれど、残念ながらそんな効果は望めなかった。



「ふーん」



下絵を終わらせて、塗りに入る。


颯は私の近くの席につくと、私の作業を無言で見つめ始めた。


彼に見られるのはもう慣れたけれど、今日はその視線が少し違う気がした。


絵を見ているというより、私を見ているような。



だけどパレットに絵の具を出して、筆を動かし始めたら、その視線も気にならなくなった。


目の前の絵と、景色に集中する。