「中野さん。君は、僕よりずっと上手いと思う。デッサン力も、構成力も、僕は敵わない」
「………そんなこと……」
「いいんだ、これは事実だから。君は上手い。だからこそ、今の君を見てるともどかしくてたまらないんだよ」
え………?
先輩の顔が、真剣なものになった。そんな彼に見つめられるのは初めてで、ドキリとする。
彼はひとつ深呼吸してから、口を開いた。
「中野さん。君には、絵を描く『目的』はある?」
目的。
言われて、考えた。
楽しいから。
私の取り柄、それくらいしかないから。
人に認めてもらいたいから。
いくつか浮かぶものたちは、先輩の意思に比べたら、なんだかパッとしなかった。
悩んだ顔をした私を見て、先輩が小さく苦笑いした。
「あー、そうだね、今のは言い方が悪かったね。君は、なんのために風景画を描いてるの?」
「………その景色の、良さを伝えたいから……?」
「どうして?」
『どうして』?
そこに理由を求められるとは思わず、驚く。
眉を寄せて目をぱちくりさせると、先輩は微笑んで「そこが大事だよ」と言った。