「僕はね、そのときの僕が伝えたいことを作品にしてるんだ。だから、作品によって雰囲気が変わるのは、当たり前のことなんだよ」
そのときの、先輩が伝えたいこと。
絵から目を離して、彼を見た。
「伝えたいこと、ですか」
「うん。僕はさ、小さい頃から人としゃべるのが苦手だったんだ。今も、あまり社交的とは言えない性格してるしね。だから僕は、言葉で伝えられないことを作品にしてる」
先輩は、私の目からすれば充分社交的だと思うけれど。
誰に対しても優しくて穏やかで、人を安心させることができる人だ。
だけど、もし彼の言う通り、あの作品たちが彼の『訴え』なら。
きっとその心には、私の知らない色んな感情が渦巻いているということなんだろう。
再び絵に目を向ける。
力強い油絵、優しい水彩画、わかりやすさに富んだデザイン画。
先輩は私と違って、『勝負』にこだわらない。賞をとって、上へ行こうとはしない。
だけど本気だ。本気で作品をつくっている。それがわかるほど、彼の作品はちゃんと完成されている。
その『本気』がどこからくるのか、私はずっと知りたかった。