颯がバットを使って、だいぶ近くまで迫ったボールを落とそうとする。


「………っ、よっ、と」

「き、気を付けてね、颯」

「うん」


この高さで落ちたら、良くて骨折だ。見ていてハラハラする。


バットの先が、トン、と軽くボールに触れた。


ボールが下に落ちていく。そのまま持ち主の男の子の手に収まった。


男の子の顔に笑顔が浮かぶ。周りの子供たちも一斉に喜んだ。


「やったー!!」

「兄ちゃんすごい!」

「ありがとうー!」


わいわいと飛び上がって喜ぶ。見上げると、颯も嬉しそうに笑っていた。



それから慎重に樹から降りた颯は、子供たちに何度もお礼を言われて、照れ臭そうに笑っていた。


嬉しそうに帰っていった子供たちを見送って、私たちもまた歩き始めた。



「すごいね、颯。ほんとにやれると思わなかった」

「ええー?理央が言ったんじゃん。『諦めるのは早い』って。だから俺、それ信じて頑張ったのに」



颯が苦笑いして言う。


確かに言ったけれど、ボールが落ちた瞬間、不覚にも泣きそうになってしまった。