颯は幹に片足を置いて、枝をしっかりと掴むと、ぐっと腕に力を入れた。
そのまま、もう片足も幹につける。身体が、浮いた。
………あ。
「…………っ」
颯が歯を噛み締めて、もう一度ぐっと力を入れた。
一気に上半身が持ち上がる。それは一瞬のことだったけれど、なんとか枝の幹に胸をつけた。
「…………はー………」
颯が長いため息をついた。私と子供たちも同じようにホッとする。
素直に颯がすごいと思った。まさか気合いで登ってしまうなんて。
「よーっしゃ、まだ行けるぞ」
言って、颯はその枝の上に立ち上がると、もう一本の太い枝に手をかけた。
それからはコツをつかんだのか、枝同士が比較的近かったのもあって、颯はするすると登っていった。
「理央、バット投げて」
男の子からバットを受け取って、颯に向かって投げる。プラスチックの軽いものだったので、なんなく彼の手に届いた。