「うっ、うう、うわぁぁーん」

「わー!泣くな、大丈夫だから!泣くな!」

「ひっ、ひっく、お、お父さんに買ってもらったのにっ……うっ、うわぁぁん」

「あー……大切なものなんだな」


よしよしと、颯が男の子の頭を撫でる。


その様子を見てから、私はその場に荷物を置いた。適当に枝の位置を確認して、幹に足を乗せる。


私を見て、颯が「えっ」と声をあげた。


「理央、登る気!?」

「大丈夫だよ、スカート穿いてるわけじゃないし」

「そういう問題じゃなくて!無理だろ、女の子だし、そもそもあんな高さ………」

「無理じゃない」


きっぱりと言い切った私に、颯が口を閉じる。


私はボールを見上げながら、「諦めるのは早いでしょ」と言った。



「諦めるのは、色々やった後だよ。努力もしないで無理って言うのは納得いかない。結論を出すのは、やりつくしてからでいい」



颯の目が見開かれる。


私は昔から、ところ構わず外で色んな景色を描いてきた。


樹に登るのなんか普通だ。いつもより、ちょっと高さが違うだけ。やってみるだけなら誰にだってできる。