「あー、のっかっちゃったわけか」
颯が顔をしかめてそこを見上げる。
子供たちは悲しそうにうつむいて、頷いた。
「揺すっても落ちてこないし、ぼくたちじゃ樹にのぼれなくて………」
確かにこの樹は登りにくそうだ。いちばん近いところにある枝でも、高い位置にある。
なにより、見たところまだ小学校低学年くらいだし、彼らでは危ないだろう。
こんなところで木登りしているのが見られたら、周りの大人が黙っていない。
「けっこう高いな………」
颯が困った顔をする。
仮に最初の枝には登れても、そこからまた登らなくてはならない位置にボールはあった。
「んー、なんか長い棒みたいなのないの?ちょっとでも登れれば、いけると思うんだけど」
颯の言葉に、子供たちは微妙な顔をした。
彼らが持っているのは、辛うじてバットだけだ。長さが足りない。
颯が「あー……」と気まずい顔をした。
すると、男の子のひとりが突然泣き始めた。思わず颯とふたりでぎょっとする。