「え、いいの?」
「うん。あとでお母さんに連絡する」
「やった」
すぐに機嫌を直して立ち上がった颯を見て、単純だなあと思った。
………単純に、見える。
その目には、本当はきっと私が考えるより、ずっといろんな色を内包しているのだろうと思った。
園内を歩きながら、どこで夕飯を食べるか話し合う。
その途中で、一本の樹を何人もの子供たちが囲っているのが見えた。
「なにしてんだろ」
颯が不思議そうな顔をして、立ち止まった。
見ると、子供たちはみんな困った顔をして、樹の上の方を見上げていた。
私たちは一瞬目を合わせてから、どちらからともなく樹の方へ近づいていった。
「どしたー?」
颯が明るい調子で、子供たちに声をかける。
颯に気づくと、男の子のひとりがおずおずと上に向かって指差した。
「ボールが…………」
彼の視線の先を追うと、樹の上の方で野球ボールが引っ掛かっているのが見えた。