「まあ、おかげでいいもの描けたよ」

「えっ、まさか寝てるとこ描いた!?」

「うん」

「うわ、はずかしー!」


今さら何を言うんだ。女子みたいに照れられても対応に困る。


寝起きで妙なテンションになっているのか、颯はしばらくうるさかった。



のろのろと広げていた道具を片付け始める。


水道でバケツの水を捨てて戻ってくる頃には、颯は落ち着いていた。


両膝を抱えて、ぼーっとしている。


面白いなあと思いながら、私は少し遠くからそれを眺めていた。


彼の目は、楽しそうに歩く家族を見つめている。


一見そう見えたけれど、実際は心ここにあらずという風にも見えた。


彼は、どこか遠くを見ている。


途方もないほど、遠くを。




「颯」


なんだかそれ以上見ているのが辛くて、声をかけた。


「………理央」


彼は私を見上げると、どこか安心したような顔をする。


母親を見つけた子供みたいに。飼い主を見つけた子犬みたいに。



「帰ろっか」



そう言うと、彼はあからさまに眉を下げた。私は小さく笑って、「ご飯食べて帰ろうよ」と言った。