そんなことを考えながら、持ってきた水彩道具たちをレジャーシートの上に並べる。
筆箱からシャーペンを取り出しながら、ふとこの前の湯浅先生の言葉を思い出した。
『もう六月も半ば。夏休みなんてあーっという間に来ちゃうからね。夏休みが明けたらすぐ文化祭だよ』
早く考えなければ。
そう思うのに、やっぱり私は颯を描くことに逃げている。
だって、信じたくないじゃないか。
文化祭の絵ができる頃、もう颯はいないんだから。
「……………」
……ダメだ。
颯を理由にしちゃダメだ。これは私の問題だ。
足元に転がる筆を見つめながら、ぼんやり考える。
何を描けば、上手くいくんだろう。
どんな風景を見つけたら、私は描こうと思えるんだろう。
「ほい」
突然頬に冷たいものを当てられて、驚いて肩が跳ねた。
横を見ると、颯がオレンジジュースのペットボトルを差し出していた。
「び、びっくりした………ありがとう」
「また暗い顔してたな」
颯の目が、じっと私を見る。
受け取ったペットボトルを、ぎゅっと握りしめた。