『仕方ない』、か。


それはひどく都合のいい言葉だ。


誰のせいにすることなく、運命だとか、そういうもののせいにしてしまえる。


転校していった人のことを忘れてしまうのは、仕方ないこと。


彼はそう言うことで、自分の心を守っているように見えた。



事実だけを淡々と述べて、諦めてしまうのは簡単だ。


『諦めも肝心』なんて言うように、ある意味正しいと思う。


無駄に心を痛める必要なく、現実を受け止めて、前を向くこともできる。



心を守るために、諦める。



それは、悪いことじゃない。


だけど私は、もどかしいなと思った。


颯ならきっと、できるはずだ。彼の友達が彼のことを忘れないよう、転校してからも関係を保てるよう、計らうことくらい。


私はなんだかもやもやした。


どこか納得したくない気持ちをもて余しながら、目の前の木々を見つめる。


シャーペンを走らせはじめてからは、どれだけ美しく描くかという点に意識は集中していった。







「…………ん」


起きたのか、隣で颯が身じろぎした。