『仕方ない』、か。
それはひどく都合のいい言葉だ。
誰のせいにすることなく、運命だとか、そういうもののせいにしてしまえる。
転校していった人のことを忘れてしまうのは、仕方ないこと。
彼はそう言うことで、自分の心を守っているように見えた。
事実だけを淡々と述べて、諦めてしまうのは簡単だ。
『諦めも肝心』なんて言うように、ある意味正しいと思う。
無駄に心を痛める必要なく、現実を受け止めて、前を向くこともできる。
心を守るために、諦める。
それは、悪いことじゃない。
だけど私は、もどかしいなと思った。
颯ならきっと、できるはずだ。彼の友達が彼のことを忘れないよう、転校してからも関係を保てるよう、計らうことくらい。
私はなんだかもやもやした。
どこか納得したくない気持ちをもて余しながら、目の前の木々を見つめる。
シャーペンを走らせはじめてからは、どれだけ美しく描くかという点に意識は集中していった。
*
「…………ん」
起きたのか、隣で颯が身じろぎした。