膝を立てて、太ももの上に画板を置く。画板のクリップに紙を挟んで、シャーペンを持った。


そのとき、梅雨の湿気を含んだ風が吹いて、目の前の木々が揺れた。


「なあ、理央」


隣から、声がする。


私はそちらを見ずに、「なに?」と返事をした。




「俺さぁ、ずっとここにいたい」




……ペンを持つ手が、震えた。


胸が苦しくなって、颯の方へ振り返ることもできなくて。


……いればいいじゃん。


ずっとここに、いればいい。



「いてっ」


突然横でそんな声がして、ハッと思考が止まった。


慌てて見ると、颯の顔の上には丸められた紙くずがあって、彼が顔をしかめていた。


颯はすぐにそれを持って立ち上がると、後ろの校舎へ振り返る。開けられた窓から、「おい!」と叫んだ。


何事かと思って見ていたら、窓の向こうから二年の男子達が苦笑いしながら顔を出してきた。


「すみませーん、落としちゃって………あ、颯か。ならいーや」

「良くねーわ!当たったっつーの」

「あははゴメーン。……つーかお前、なに校内でいちゃついてんだよ。見せつけてんじゃねー」


颯のクラスメイトの男子達が、窓からぞろぞろと顔を出してくる。


新聞紙を丸めた棒を持っている人もいて、廊下で野球ごっこでもしていたのかと納得した。颯は流れ弾に当たったわけだ。