潤んだ目を見られたくなくて、俯く。颯は少しの間、黙っていた。
沈黙が美術室を埋める。いつのまにか日は暮れかけていて、白い壁がオレンジ色に染まっていた。
「………理央」
颯がぽつりと呟いた。
「誰からも好かれてる人間なんて、いないよ」
ハッとして、顔をあげる。
彼は悲しそうな顔をして、まっすぐ私を見ていた。
「………………」
「絶対誰からも嫌われてない人間なんかいないんだよ。俺も、理央も、みんなも」
言い聞かせるようでいて、淡々と事実を述べているようにも見えた。
誰からも愛される人なんか、いない。
私だってわかってる。でもわかりたくない。それは希望にもなるし、絶望にもなる事実だからだ。
颯はその絶望を、知っているの?
そしてそれを、受け止めてるの?