颯は、いつも通りに声をかけてくるかもしれない。何事もなかったかのように。
そうしてくれた方が、私もやりやすいのかもしれないけど。
「………………」
机に荷物を置いて、ふと顔をあげる。
見えるのは、見慣れた美術室の風景。なんらおかしなところはない。普通の、美術室に、見える。
……… 私の目は、正常だ。
今日一日、びくびくしながら他人の姿を見た。
当然ながら、身体が透けて見える人なんていなかった。
私の目は正常だ。異常なのは……たぶん、颯の方。私はその異常を唯一見ることができる、ということなのだろう。
颯の身体が、透ける。透明になる。
どうして………?
「こんちはーす」
そこで元気のよい声とともに、ガラガラとドアが開けられる音がした。
「………あ」
目が合う。その瞬間、颯は思っていた通り優しく笑った。
そして、ガバッと頭を下げた。
「ごめん!!」
「………え」
なんだ、いきなり。
予想外のことをされて戸惑う私に構わず、颯は頭を下げたまま続けた。