「……颯。お願い、返事して……」



見開いた瞳から、涙がぼろぼろとこぼれた。


視界が歪んで、使い物にならない。うつむいて、涙をぬぐう。


………颯、颯。



「返事して、颯!!」

「理央!」



その瞬間、視界が一気にクリアになった。


私の目には灰色のコンクリートと、爪先がこちらを向いた、白いスニーカーが映っている。


両腕は気づけば、力強い手のひらに掴まれていた。



ゆっくりと、顔をあげる。


息を切らして焦った顔をした颯が、私を見下ろしていた。



「………理央。大丈夫、俺はここにいるよ」

「……………」

「まだ、ここにいる」

「………颯?本当に、颯?」



思わず手を伸ばして、その頬に触れた。


ちゃんと暖かい。幻じゃない。


それを確認して、また涙が出た。颯は辛そうに眉を寄せる。


彼は落ち着いた声で、「ごめん」と言った。


「……すぐ返事できなくて、ごめん」

「……なんで、消えたの……?」


私は、謝ってほしいんじゃない。


ねえ、なんで消えたの。

わかってるの、自分が消えたこと。