きっとそれを知っているのは、私だけだから。必死に、彼の姿から目をそらさないように。
そのとき、大きく風が吹いた。
思わず目を閉じる。長い髪が揺れて、私の視界を覆った。
そして再び目を開けたとき、私は呼吸を忘れた。
消えた。
颯がいない。さっきまでそこにいたのに。
私の目の前にいたはずの颯が、いない。
視界に広がっているのは、見慣れた田舎町の景色だけ。
大切なものが抜け落ちた目の前の絵画は、ただの味気ない風景画でしかなくて。
「颯!!」
涙声で、名前を呼んだ。
左右を見る。後ろを振り返る。だけどいない。颯はいない。どこにもいない。
なんで、どうして。
さっきまでいたのに。消えないように、どこにもいってしまわないように、私は今日ずっと、彼の近くにいたのに。