やさしい陽射しが、鼻先から彼に注がれる。陰がその白い肌の上に、墨汁を垂らしていた。
ーー綺麗で、今にも消えてしまいそうで。
見えた颯の横顔は、やっぱりすべてを諦めたかのような、悲しみも何もない、穏やかな表情をしていた。
長いまつげが伏せられて、切れ長の大きな瞳が静かに閉じられる。
たくさんの人を笑顔にしてきた彼は今、こんなにも落ち着いた顔で、ゆっくりとそのときを待っていた。
みんなとお別れする、夏の終わりを。
彼は抗うこともせず、ただゆったりと、待ち続けている。
私はそれがもどかしくて、だけど自分には何もできないことも知っていて。
抵抗することも諦めて、笑い続ける颯は痛々しくて、私は目をそらしてしまいたくなった。
だけど私が目をそらしたら、きっと彼は今度こそ、消えてしまうとも思う。
明るい笑顔の中にある、あの苦しげな表情や、見ているこちらが泣きたくなるほど、切なくて可愛い笑顔とか。
みんなの世界のまんなかにいる彼の、本当の中身の心。人を笑顔にするためのものじゃない、『颯』の弱い部分が、消えてしまうと思った。