「だってさ、颯」
自分の話をしていると気づいていたのだろう。振り返ると、案の定颯はこちらを見ていた。
私と目が合うと、照れたように目をそらす。
「かっこいいんだって」
「……あ、ああ。サンキュ」
「よかったね」
「……理央はそう思ってくんないの?」
「思ってるよ」
間を空けずに答えると、私は前を向いて目を閉じた。
ひゅう、と風が吹く。梅雨前の、少しだけ湿った柔らかな風だ。
「 “ 颯 ” 」
唇だけを動かして、彼の名前を呼ぶ。するとじんわりと、私の心に何かが広がる。
「……『颯』って呼ぶと、私はなんでか落ち着くよ。ホッとする。理由はわかんないけど、はじめからこうだった」
理由は、わからない。ずっとそうだ。
彼の姿をはじめて見たときから、密かにずっと私の中には、違和感が横たわっている。