じゃなきゃ私は、きっと後悔するだろう。
あんなにも心惹かれる景色に巡りあって、描かなかった自分を。
……今ではほとんど感じることのない、心から描きたいと思えた瞬間を、大事にするべきだったと。
「あら、理央。出かけるの?」
日曜日の朝、画材一式を詰めこんだトートバッグを肩にかけて、玄関のそばに座る。
後ろから声をかけてきたお母さんに、そのまま「うん」と短く返事をした。
「どこ行くの」
「駄菓子屋」
「この近くの?」
「うん」
スニーカーを履いて立ち上がると、一度お母さんの方へ振り返って、「行ってきます」と言った。
洗濯物が入ったカゴを抱えたお母さんは、「いってらっしゃい」と微笑んだ。
「気を付けてね。駄菓子屋のおばあちゃんによろしく」
「うん」
玄関の扉を開けて、外へ出る。
午前の眩しい日光に、目を細めた。今日は雲ひとつない快晴だ。