『私に、颯を描かせて』
私のあのときの言葉は、ほぼ衝動に突き動かされてこぼれたものだった。
だけど不思議なことに、後悔の気持ちは全く出てこなかった。
繰り返し思い出せば思い出すほど、その言葉は私の心に馴染む。
私は、颯を描くんだ。
私の素直な目で見た、風景の中で。
『俺、夏が終わったら転校するんだ』
らしくない陰のある表情で、彼はそう言った。
その、まるですべてを諦めたかのような目に、何故だか腹が立った。
自分が描かれた絵を見て、それで満足したみたいな顔して。
今にも『もういいや』と言い出しそうに見えた。『もう悔いはない』と。
『すげー嬉しい。ありがと、理央』
あんなにも、切なそうに笑っていたくせに。
私が惹かれたあの笑顔。可愛くて子供みたいで、それでいて、私の知らない何かを含んでいた。
私はそれに、暖かくてやわらかな切なさを感じた。その雰囲気は、彼の周りの景色をふわりと彩らせて、もう一度私にあの衝動を与えた。
残したい。
颯がいるこの風景を、形にしなきゃいけない。