………偶然、今まで見かけなかっただけだろうか。
この高校に入って、もう一年も経つのに……?
眞子は内巻きのボブを揺らしながら、不思議そうに首を傾げて私を見る。
「橋倉くんがどうしたの?」
「……いや……べつに」
もやもやしながら、食事を続けた。
だけど段々と、どうして彼について私はこんなに考えているのだろうと思えてきた。
橋倉くんが透明に見えたのは、きっと気のせいだ。
春は眠たくなるし。あのときは授業終わりで眠たくて、ぼうっとしていたんだろう。きっとそうだ。
それからは、何故か橋倉くんの姿が頻繁に目に止まるようになった。
意識していないつもりなのに、どうしてこうも目につくのだろう。
隣のクラスの橋倉颯は、いつも人の輪の中心で笑っていた。
廊下に出れば、彼を呼ぶ誰かの声が聞こえてくる。隣の教室の横を通れば、彼の周りに色んなひとが集まっているのが見える。
今まで何故知らなかったのか、本当に不思議なほど、彼は目立つ存在だった。