高木先輩に電話をしてから1週間は過ぎた。
それでもこまめに携帯をチェックする自分が嫌になる。

休みの日など特にそう。朝から何度も携帯を見てしまう。

落ち着かない気分を誤魔化すために、午後から幼稚園に向かった。
仕事はたくさんある。
何かしている方が、余計なことを考えなくて済む。

「あら?奈々先生、今日は休みじゃなかった?」

今日出勤だった友紀奈先生が職員室に一人でいた。
気まずさを勝手に感じるから、自然と視線が他の方へといってしまう。

「今日は休みなんですけど、やっておきたいことがあって……あの、教室の方でやってきますね」

逃げるように書類をまとめて出口へと向かう。

「奈々先生」

良く通る友紀奈先生の声がひと際澄んで私を呼び止めた。

「…はい」
「このジャージ新しく買ったんだけどどう?」
「へ?」

一瞬ポカンとしてしまった。
友紀奈先生とはあまりそんな世間話をしたことがない。

友紀奈先生が真新しい赤いラインが入ったadidasのジャージを引っ張っている。

「あ、はい。良くお似合いだと思います」
「ありがとう。洋祐先生とお揃いのにしちゃった」

微笑を湛えたその目が私に向けられた時、背中に緊張が走った。

そういうことか……

「そうなんですか…素敵ですね」

私も微笑を作る。

「奈々先生のそのNIKEのジャージも素敵ね」

「はい。お気に入りなんです。じゃ、教室行きますね」

くるりと背を向けて、扉に向かう。

扉を閉めようとしたとき、まだ私を見ていた友紀奈先生と目が合った。

軽く微笑んで扉を閉めた。