『まあ…!まさか森の中でそんな事態が起こっていたなんて…。
とにかく二人が無事で何よりでした』

ミゼリアはそう言って、焼いていた串に刺したキノコを私に差し出した。
私とトキユメが四天王ディノタウルスと激闘(?)を繰り広げている間、ミゼリアはキノコ狩りに没頭していたらしい。
私とトキユメが牛の怪物に追い回されている間、キノコを焼いて食べていたらしいのだ。

『森から何か爆発音みたいなのが聞こえてきてはいたんですが、ア-リッヒさんが仕掛けた罠の音かと思ってましたよ』

いや、小動物捕まえる罠って爆発音する?

『もうちょっとで牛ステ-キにありつけたんだけどな』

トキユメが酒瓶の蓋を空けながら言う。

コイツまた飲む気か…。

『あんなの食べれるわけないでしょ。
リザイア先生が来なかったら、今頃どうなってたか…』

私はそう言うと、キノコにかぶり付いた。

『てか、これ何ていうキノコ?』

口に広がる不思議な味に私は思わずミゼリアを見る。

『それは、確か…森の中で自然死していたモンスタ-の股間に生えていたキノコです』

『ボバァアアアアア!!
何を食わせとんじゃぁああ!!』

笑顔のミゼリアの言葉に、私は咀嚼した物を地面に吐き捨てた。

『お口に合いませんでしたか?
もう一本は私も食べたのですが…』

食べたの!?
てか、2本生えてたの!?

『ウヒャヒャ!
ば-か、分かってやれよミゼリア。
ア-リッヒが頬張りたいのはそんなチンケなキノコじゃなくて、
リザイアのキノ…ッゴファ!!』

私の頭突きでトキユメは地に沈んだ。

『失礼しました。
では、こちらのキノコを召し上がれ』

ミゼリアはそう言って、禍々しい色をしたキノコを焼き始めた。

『それ、見るからに毒キノコなんだけど、大丈夫なの…?』

『私が調合師だということをお忘れですか?
毒のキノコか否かの区別くらいつきますよ。
それに、こういった食材は見た目が悪いものほど美味しいんですよ?』

そう微笑むミゼリアを見て、私は彼女に始めて会った日を思い出した。

大学校舎の裏手にある、毒草や毒花が生い茂る草原にミゼリアは一人ぼっちで立っていた。
そよ風に揺れるカラフルな景色の中で、その天使のような美しさの異色ぶりは、もはや無色にすら見えたものだ。

彼女は私に気がつくと微かに笑って、そっと手をさしのべた。
それは毒の誘惑か、毒の幻覚か…どちらにせよ、私は導かれるように見えない糸に引かれるかのように、毒の草原へと足を踏み入れその手をとった。

あの感覚が何だったのかは分からないが、これだけは絶対に言える。

もしあの時、私が毒に躊躇い近寄らなかったら、今ミゼリアは私の傍には居ない。



『はい、焼けましたよア-リッヒさん』

ミゼリアの声で我に返った私の目の前には、焦げ目のついた紫色のキノコがあった。

『う…、焼けると更にグロい感じが…。
でも、食べれるんだよね?』

私はひきつった笑いを浮かべながら恐る恐るキノコを口に近づける。

『あ、待ってください。
これを忘れてました』

ミゼリアは小瓶を取り出すと、私のキノコに何やら液体を振りかけた。

『これは?』

これまた複雑な色合いに、私はますます不安になる。

『解毒剤をふんだんに使用した特製ソ-スです』


……やっぱこのキノコ、ポイズンじゃね-か!!