唇を尖らせる紬の手を引いて、店の外へ連れ出す。途中でまた奢られることに気付いた紬が足を止めて兄貴に頭を下げる。ひらひらと笑いながら手を振る兄貴を流し見ると、二人連れだって店を出た。


「……よかった」


ぽつり、と。しみじみとそう言った紬に、本当に、と返す。手を繋ぎながら歩く道は、今日は少し暖かい。言わなくても河原へ向かう道を進んでいくと、ねえ、と声をかけられて足を止めた。


「真幸さん、って、どんな人だったの?」


ひたりと俺を見つめる紬に、嗚呼そうか紬は知らないのだと気付く。話すから行こう、という意味を込めて手を引っ張ると、それが分かったらしい紬は何も言わずに河原に降りた。


「どんな人だったか、って言われると難しけど……一人っ子なのに子供の扱いが上手くて、人懐こくて。人の懐に入り込むのが上手だったのかもなあ。俺が懐いてたんだから、相当」

「そっかあ……そ、っかあ」


千緒さんの想い人。そして、織葉さんの好きだった人。


だった、と言ってしまっていいのか分からない。まだ好き、である可能性も否定はできない。もう二年とも言えるし、まだ二年、とも言えるから。


「……私も話してみたかった、な」


その呟きには、何も返せないと思った。


隣に座っていた紬が、俺の肩に頭を預けてくる。何も言わずに、俺はその甘えを受け入れる。


いつだって、他人のことばかりだった。自分のことはいつも後回しで、誰かが困っていると手を差し伸べて。するりと懐に潜り込んできて、気付いたら色々な事を話している、そんな不思議なひと。


真幸くんは、最期までそうだったんだと実感した。本当に、いっそ呆れてしまうほどに。そんな彼が大好きで、だから受け入れきれずに放り投げていたけれど、漸く受け入れられた気がする。


何が違うかと言われたら分からないけれど、きっと何かが違う。そして、自分がきちんと受け入れられたことに、少し安心する。


いつまでも受け入れきれないのは嫌だった。けれど自分ではどうにもできずに、問題を先送りにした。今回こういう機会がなかったら、ずっとこのままだったかもしれない。


ちゃんと受け入れないと、悼むことはできないから。


「……今度、お墓参り一緒に行こうよ」

「……いいの?」

「うん。一緒に、来てほしい」


葬式に出てから、一度も行っていない。ご両親も複雑だろうといつも理由をつけて、行っていなかった。兄貴は日付をずらして行っていたようだけれど。


命日は過ぎてしまったから、月命日にでも。その時は、紬と付き合っているといいかもしれない。真幸くんに、俺のもう一人の兄に、将来の奥さんだよ、って。