数日後。再び兄貴に呼び出された俺と紬は、数日前と同じように並んで喫茶店へ向かっていた。


この間よりもお互い緊張してはいない。俺は兄貴から、紬は織葉さんからそれぞれ連絡を貰っていて、二人とも深刻そうな声はしていなかったからだ。


「一緒にいるのかな、今」

「そうなんじゃないかな。というか、兄貴いつも唐突でごめんね」

「お姉ちゃんも唐突だったし、大丈夫。用事があって学校残っててよかったよ」

「帰ってても呼び出しそうだけどね……」


紬のことは考慮していても、俺のことは考慮してくれなさそうである。話はきちんと聞きたいし、言われたからには他の日に持ち越すなんてしたくないから構わないのだけれど。恐らく兄貴はその辺りも分かってやっているのだろう。


ここのところ、ずっと天気がいい。透き通るような青とところどころにかかっている白い雲、もう少し寒くなってくれば紅葉も綺麗だろう。今は金木犀の時期だが。


紅葉が見られるにはまだ一ヶ月以上あるなあ、と思いながら紬と手を繋いだ。二人で並んでいると手を繋ぐのが当たり前になってきている。お互いの体温を感じていられるのはとても幸せで、安心するからもうやめられそうにない。


喫茶店の中に入ると、奥の方の席に兄貴と織葉さん、それからもう一人女子高生を見つけた。千緒さんか、と思いつつ手招きするのを見て三人に近づく。四人掛けの席なので隣から一つ椅子を拝借すると、紬をそこに座らせて俺は兄貴の隣に座った。


「千緒ちゃん」

「紬ちゃん、久しぶり。……心配かけてたみたいで、ごめんね」


案の定、紬の呼びかけに女子高生が千緒さんだということを知る。ふるふると首を左右に振って否定した紬が、そっと兄貴たちを覗き見た。


「二人とも、心配かけてごめん。……もう大丈夫、だから、安心してほしい」

「紬、ごめんね。渉くんも。それから、きっかけを作ってくれてありがとう」

「私からも。渉くんとは初めまして、に近いけど。本当にありがとうございました」


前置きもなしに、兄貴が言った言葉に織葉さん、千緒さんと続く。一拍置いて、紬と視線を絡めた。それから、言葉の意味をきちんと受け取って、思わず笑みを零す。


もう、大丈夫。


兄貴が言ったからには、本当に大丈夫なのだろう。織葉さんも、千緒さんも、嘘を吐いているとはとても思えない。よかった、と隣から零れた言葉に、俺も一つ頷いた。


「仲直りしてくれて、ありがとう」


俺と紬の、自己満足のために。


どういう話をしたのかは、俺たちには分からない。でもそれでいいのだと思う。俺たちが知らなくたって、三人の仲が改善すれば何の問題はない。