「愛子、ごめんね
2人だけで話したいからリビングでテレビでも見てて?」



ハナに言われ大人しくテレビをつけてソファに座っていた



何十分?何時間?しただろう………



ハナとムラは出てきた



愛子はテレビを消して二人の目の前に立った



少しの沈黙はまるで何十年もの時に感じられた



そんな沈黙を破ったのはムラだった…



「愛子…」



ゆっくりと、確実に、初めて会った時みたいにどこまでも透き通る様な声で名を呼んだ



愛子はムラはを真っ直ぐ見据えていた



深呼吸をしてから、言葉を続けた



「俺は、医者として生きたい…
昔、医者として失敗した事がある…

その時、俺は弱くて…
あの施設に、逃げ込んだ……
そこには、失敗しても逃げずに、誰か1人に煙たがられてもしっかりと……


生きている子供たちがいたんだ…
俺なんかよりも苦しい境遇で笑って過ごしている子を見たら、自分がどんなにちっぽけなのか…

そのうちに、こんな事をしている間にも自分の力で助けられた者があるんじゃないか
こんな事をしているから助けられなかった者もあるんじゃないか

って、思い始めた…
けれども、どうしても医者に戻る事は出来なかった…

苦悩が何日も続いていた…
そんなある日に、愛子を引き取ることを決めたんだ

バカだろ?
愛子を引き取って、何かが変わる保証なんてない…

けど、変わった
愛子が来て、人を愛する事を教えて貰った
もちろん、娘として愛子をこの上なく愛した
だから、前のように悩まなくなった…

そしてこの間、仕事の依頼が来た…
外国だ
未だに戦場だそうだ
生きて帰ってこれる保証なんてない
気休めも言いたくはない、
救えるものを救わないのはもう嫌だ

愛子を置いていくのも嫌だ!
けど……自分で決めたんだ…

俺は戦場に行く、医者として…
そんで、ちゃんと帰ってくる…
愛子の父親として…


だから、待っててくれ……」



ムラは深く頭を下げて涙を溜めていた



愛子は笑顔を作りながらも涙を流していた



そんな愛子を見てハナは愛子に



「言いたいことを、言っていいのよ?
これが最後の別れとは言わない…

けど、無理は溜めない方がいい」