「そんな事をせずともあの光一君が美佐を説得したんだよ。あの男は舞阪の家には向いていなかった。それを今になってやっと美佐が納得したという事だ。」
きっと、会長は美佐と光一が間もなく離婚することは知っていたはずだ。なのに何故そうと分かっていながら優也に茜と結婚させたのか納得がいかなかった。あれほど美佐へ求婚した優也を美佐の娘と結婚させるとは。優也は怒りで拳を握り締めていた。
「黒木さん、茜さんに伝えて下さいね。もし良ければ茜さんも見合いの席に同席下さっても構いませんと。」
「茜がどうしてあなたの見合いに同席するんですか?」
「母親の見合いの席ですから、お嬢さんがいた方がリラックスして良いでしょう?」
優也は頭の中が真っ白になってしまった。「母親の見合い」という事は、この男は美佐と見合いをするという事なのだ。そして、それが上手くいけば二人は結婚することになる。茜と結婚してしまった優也にとってこの男は義理の父親になってしまうという事だ。
その衝撃に優也は何も言えなくなり黙り込んでしまった。そんな優也に追い打ちをかける様に会長は更に次なる言葉を投げ掛けた。
「きっと杉浦君は我が社の後継者となる男子を儲けてくれるだろう。そうなれば私も安心してあの世へ行けるというものだ。」
そう言って大声で笑う会長に優也は奈落の底に突き落とされた気分だった。