「お祖父ちゃんからかい?」と、優也が声を掛けると茜は違うと手を振ってリビングから出てしまった。茜がドアを閉める時に電話に向かって「斎藤君」と言う言葉が聞こえた。
優也はその男の名前に聞き覚えがあるように思えた。どこで聞いた名前だろうかと暫く頭を捻って考えていた優也だが聞き覚えのある名前にしてはどこの誰か思い出せなかった。「うーん」と唸りながら考えてもその名前が誰なのか思い出せない。
茜の学校の友達なのだろうかと考えていたが、優也は茜の交友関係については全く知らなかった。それはお互い様の事で、結婚して一緒に住み始めたもののお互いの事を何も知らないのだとこの時気付いた。
茜はこれまで交際した男はいなかったのだろうかと、ふと考えてみた。今時の高校生ならばボーイフレンドの一人くらい居ても不思議ではない。まして、茜の母親が16歳で茜を出産したのだからその娘の茜にもそんな男が存在しても不思議ではないと思った。
それもあり会長に命令されて優也は茜と結婚したのだと再認識させられると気が重くなってしまった。
気分転換にビールでも飲もうかとキッチンへ行き冷蔵庫を開け缶ビールを取り出した。缶ビールを頬に当てるとその冷たさに体が縮み上がりそうになると、体をぶるっと震わせてソファーに腰かけた。