炊事した後はキチンと片付ける様に口喧しく言っていた通り、茜はまな板も野菜ボールも包丁もみな元の位置に片付け終わっていた。

 三角コーナーの生ゴミ入れに人参やジャガイモの皮が捨てられていたが、その皮は厚く切られていて皮より身の方が厚みが目立っていた。

 必死に皮を剥いたのだろうと、その皮の厚さを見て茜の炊事する光景が目に浮んだ優也はクスッと笑いそうになったが、皮の一つが赤くなっていることに気付いた。その皮を手に取りじっくりと見ると、それは紛れもなく赤いものが血だと言うことに気付いた。

 茜が包丁で怪我をしたと分かると急いで茜が座るソファーへと行った。茜の前に跪くと「ご飯、一人で作れたよ!」とあどけない顔を見せていた。

 茜の両手を掴んで手の平も甲も何度も確認する優也は、茜の手がいつの間にか切り傷だらけになっていることに気付いた。これまで茜の手が荒れることなど気にも留めなかった優也だが、茜の血の付いたジャガイモの皮を見て初めて茜に可哀想な事をしたと思ってしまった。

 一緒に暮らし始めた頃は、まだ、お嬢様の茜は包丁を握ったことも野菜を洗ったこともなかった。母親に大事にお姫様の様に育てられた茜は、本当にお嬢様の生活をしてきたのだ。