温泉旅館では、茜が拗ねてしまったことで優也は旅行の取り止めを決めてしまった。
美佐は夫婦水入らずの旅行をするように説得したが、優也は茜が我が儘を言うからと旅行を続ける気はないと頑として譲らなかった。
その為、最初の夜だけ一泊したものの翌朝には優也の運転で帰宅してしまったのだ。
「あ母さんが好きな食べ物ってなんだい?」
「いつも、私の好きなおかずがメインだったから、お母さんが好きなものって想像つかないな。」
「本人に聞いてみるのもいいよ。せっかく作るのなら喜んでくれるものを作ったほうがいいだろう?」
優也はそう言うものの、茜は内緒で作って驚かしたいという気持ちが強くて事前にネタバレはしたくなかった。
「どんなのが好きか想像できない?」
優也が茜の親孝行の真似事に付き合ってくれるのは嬉しいけれど、茜にはわからないことばかりが多くてアドバイスなのにアドバイスには思えない。
「想像できない。それに手料理なんて絶対に無理だから。やっぱり温泉にしておけば良かったのよ。」
かなり剥れてしまう茜は飛び起きるとソファーに正座した。そして、数回ソファーの上でジャンプすると飛び降りた。