優也が浴衣を着た頃、茜が両手にいっぱい水のペットボトルを抱えて戻ってきた。走って買ってきたのか額からかなり汗を流していて、髪まで濡れていて折角のキレイな髪が乱れてしまっていた。

 優也は茜からペットボトルを取り上げると美佐の所へと持っていった。

 何事もなかったかのように振る舞う優也に美佐も合わせたように無言のまま渡されたペットボトルを受け取った。


「茜、バッグの中にまだタオルが入ってるだろう?」

「あ、髪なら平気。このままでも。」


 無邪気に笑う茜の頭に優也が持っていたタオルを被せた。そして、クシャクシャと拭くと茜が「痛いわよ!」と、手をバタバタさせていた。


「しっかり乾かさないと風邪引くぞ。」

「いつも自然乾燥なのよ。平気だってば。」

「大人しく座る!」


 優也は美佐が寝ていた隣のベッドへと茜を座らせると、濡れた髪をタオルでグシャグシャにしながら拭いていた。


「髪が痛んでしまうわよ!」

「なら、ドライヤーで乾かそう。洗面所にないかな?」

「さあ、」


 優也は茜の腕を引っ張って洗面所へと行ってしまった。

 今の様子を見る限りは仲は悪くない二人に安堵していた美佐だが、どう見ても二人は夫婦には見えなかった。

 まるで、父親に甘える娘のようだ。優也は拒んでいたが、茜が妻らしくなれば二人は仲の良い夫婦になれるのではなかろうかとも思えた。


 避けられない結婚ならば茜の為にもそうなって欲しいと美佐は願わずにはいられなかった。