「これ、使って。」

「ありがとう・・・・」

「あまり怪しい態度を取って茜に心配かけて欲しくない。茜はまだ傷つきやすい年齢の子だ。茜には悟られないで欲しいんだ。」


 優也は本当に茜を大事に想ってくれているのだとそれだけは感じ取れた。けれど、美佐はそんな優しさを見せる優也が怖かった。


 だから、俯き加減で優也からタオルを受け取ると美佐は女湯の方へと急いだ。


「随分と可愛い反応するんだな。あの辺は親子そっくりかな?」


 美佐の焦る後ろ姿を見てクスクス笑っていた優也は、笑顔のまま男湯の方へと向かって歩いていた。その笑顔はとても幸せな顔をしていた。



 茜と一緒に温泉でゆっくり体を休めた美佐は部屋へ戻るのが苦痛だった。茜に知られたくない優也は、きっと、茜の前では茜の夫として振る舞ってくれるのだろう。そう期待しながらも、美佐へのアプローチも忘れない優也にどう反応を示して良いのか悩むのも事実だった。



「お母さん、どうかしたの?」

「え? 何?」

「あまり嬉しそうじゃないから。温泉嫌だった?」


 茜が心配そうに美佐の顔を覗きこむ。温泉のお湯がとても熱いからと誤魔化そうと美佐は手で顔を仰ぎながら茜に「お湯に当たったのかもね」と笑顔を向けていた。


 その笑顔が無理しているように見えた茜は、もしかして湯あたりしてしまったかと美佐を急いで脱衣所へと連れて行った。