その夜、食事の準備を一緒にしながら旅行先をどこにするかをずっと話していた二人だが、炊事の手より旅行の行き先の話が盛り上がるとなかなかご飯作りが捗らない。


 包丁を動かす度に行き先を思いついては手を止める茜に、優也は今は刃物を扱っているから危ないと調理に集中するように言うも茜は全く優也の忠告など聞いてはいない。


 茜の頭の中は既に旅行のことでいっぱいのようだ。


 夢中になると人の話を聞かない所は案外会長と同じなのだろうと思った優也は、茜が包丁で怪我でもしないかハラハラしていた。かなり心臓に悪いと思った優也は、次からは炊事する前に大事な会話はしないようにしようと心の中で一人決めていた。


 そして料理が出来上がった時、かなり疲労困ぱい状態の優也はソファーに寝っ転がっていた。


 旅行先を閃く度に包丁を振り翳す茜が怪我でもしないかが気になってしまい、優也は生きた心地がしなかった。どんな些細な傷だろうが、どんなに見えない隠れた場所の傷だろうが、茜には擦り傷一つつけるわけにはいかない。


 それだけ優也にとっては茜は大事な存在なのだ。