「優也さん?」
「あ、ああ。ごめん。秘書にチケットを用意させていたから、ちょっと驚いてね。」
茜は秘書と言われてもピンと頭が働かなかったようだ。「極秘」のはずの結婚を外部の人間が知っている。それは優也にとっては意味のあることだった。
そんな事を考えていると、茜の前でつい眉間にしわを寄せたまま考え事をしていた。その表情に茜は、優也は優しいけれど本当は茜との旅行を望んでいないのだと思ってしまった。
「無理しなくてもいいのよ。お祖父ちゃんがくれたチケットは返してもいいし。」
「そんなことは出来ない!......ほら、せっかく会長が俺達の為に用意してくれたんだよ。」
優也はチケットの行き先が決まっていることを茜にどう知らせるべきかを悩んだ。それに、新婚旅行の期間についても優也は悩んでいた。
秘書からチケットを渡された時に言われた言葉を思い返していた。
『会長はハネムーンベビーを楽しみに待っているとのことでした。』
その言葉がどんなに残酷なセリフか優也は知っている。
優也は会長に試されているのも分かっていた。母親の美佐への求婚に失敗した優也が残された経営者としての道は、美佐の娘の茜との間に男子を儲けることのみだったのだ。