「なあ、茜。実は、今日会長から呼び出されてね。」
「お祖父ちゃんに何か酷いこと言われたの?!」
「まさか、会長は茜が可愛くて仕方ないんだよ。なのに、突然平日に入籍を済ませるだけの結婚をさせて申し訳なかったとね。だから、俺達にゆっくり羽を伸ばして欲しいって新婚旅行をプレゼントしてくれたんだよ。」
優也は会長から呼び出された後の事を思い出していた。
会長に釘を刺された後、自分の持ち場へ戻ろうと会長室を出た廊下で待っていた秘書に、会長からと手渡されたものがあった。
『これは会長からです。』
『チケットですか?』
『はい。お二人には新婚旅行へ行っていただきます。そして、奥様との仲をより一層深めて頂きたいそうです。』
そう言って秘書は会長から預かったと言う飛行機のチケットを優也に手渡した。
そのチケットを見た途端、優也は背中が凍り付くかと思ってしまった。秘書には動揺を悟られてはならないとチケットを受け取ると笑顔で「ありがとう」と答えていた。
本来ならば二人の結婚は極秘扱いでこれを知る者は極僅か。なのに、この秘書は事情を熟知しているようだった。きっと、単なる秘書ではなく会長の私設秘書ではなかろうかと思えた。
優也はこの秘書の前でも顔色一つ変えることで全て会長へ報告されるものだと思い知った気分だ。