数回煙草を吸うとそれを灰皿に押し付け火を消した。まだ吸えるのにと優也はその煙草を眺めていると会長はソファーから立ち上がりデスクの方へと歩いて行った。
優也もソファーから立ち上がり会長の方へ向きを変えた。
「黒木、忘れるな。お前は一度ならず二度も美佐への求婚を失敗している。ならば美佐ではなく茜との将来を考えろ。これは命令だ。」
それだけ言うと会長は自分のデスクに座り仕事に取り掛かった。優也は会長からの命令では逆らうことは許されない。
会社の経営に携わりたい一心で会長の下で勉強を続けて来た優也にとって会長の言葉は絶対だ。
それが分かっている会長は「命令」と言う一言で自分の意のままに後継者を得ようとしていた。
「分かりました。早く後継者をお見せ出来る様に努力します。」
優也にはその言葉以外何も言えずにその部屋を後にした。
会長からの呼び出しは茜との結婚が覆ることはないと思い知らせるためのもので、早急に後継者を求める会長の期待を裏切るなと念を押されてしまったのだ。
溜め息しか出てこない優也は持ち場へ戻る気分になれずにいた。
茜との未来を考えられない優也にはこれからの生活がどれほど苦痛なものになるのか頭を痛めていた。