「私は何度も申しました。この際、夫婦仲が思わしくない美佐さんが離婚するのが一番良いかと思います。出産するにしても年齢を考えれば美佐さんの方が適齢ですし。」

「お前が美佐との結婚を望んでも、アレはあの男とは別れないだろう。」



 優也は会長の言葉に何も言い返せなかった。俯いたまま拳を握り締め膝に押し付けていた。


 押し付ける拳は少し力が入っていたのか少し震えていた。



「黒木、私はお前が将来この会社の役に立つ男だと思っている。だからこそ茜との縁談を仕組んだ。美佐より茜の方が若い分、夜も楽しめるだろう?」


 優也は握り締めていた拳を開き膝を力を込めて掴んでいた。


 そんな優也を見て大きく溜息を吐いた会長は胸ポケットから煙草を取り出した。テーブルの上にある灰皿を取るとタバコの箱を開けて1本取り出した。


 煙草を口に咥えると反対側の胸ポケットからライターを取り出し火をつけた。しかし、何度やっても火が付かず煙草が吸えない。



「オイルが切れたかな?」


 その言葉に優也はハッとして自分が持っていたライターを取り出し火を点けて会長の方へと差し出した。会長はその火を借りて煙草に火をつけると深く吸いながら大量の煙を吐き出した。