「では、一緒に帰りましょうか?」


 自宅にいるはずの茜なのに帰ろうと声を掛けられるとこの家はもう自分の家ではなくなったと寂しく感じた。それでも、今朝、目を覚ました時は部屋に荷物があったのだから、この家はまだ自分の家だと思いたかった。


「着替えて来ますので待っててください」


 見知らぬ人と一緒に『帰る』ことに茜は不思議な感覚を覚えた。しかし、入籍をする以上はこの不思議がこれからは当然のことになるのだと唇を噛みしめながら感じていた。


 自室へ戻り着替えを済ませようとすると、今朝まであった自分の荷物が何もないことに気付いた。茜は慌ててクローゼットの扉を開け洋服を探したが、そこも蛻の殻で何もない状態だった。


「ごめんね、茜。」


 悲しげな声が背後から聞こえてくるとそこには母の美佐が目を潤ませて立っていた。


--お母さんはお父さんが好きで一緒になっただけ。それのどこがいけないのか私には理解出来ない。おじいちゃんは勝手すぎる。


 そう言いたい気持ちをグッと堪えて茜は美佐の傍へと寄ると涙目の美佐を抱きしめた。「私なら大丈夫よ」とそれだけ声を掛けると美佐から離れ着物を脱ぎ始めた。