会長室は何度訪問してもあまり心地いい所ではなかった優也は、会長室前の廊下を歩くたびに神経が高ぶる。会長室の前までやって来るとかなり神経を尖らせていた。
「失礼します。開発課課長の黒木さんをお連れしました。」
「入れ」
秘書はドアを開けると優也に手招きをし、優也が部屋へ入ったのを確認すると会釈をしドアを閉めた。すると、会長の部屋には優也と会長の二人だけになり重々しい空気が流れる。
「まあ、座りなさい。」
「はい、ありがとうございます。」
優也の気が張りつめている様子がひしひしと伝わって来た会長はにこやかな表情で優也に座るように促し、自らも応接セットの一人掛けソファーに腰かけた。
会長が座ったソファーの正面にある3人掛けのソファーへ座った優也は大きく深呼吸をした。
優也を見る会長はにこやかな笑顔を見せてはいるが、目が笑っていないのが分かると優也の緊張は増すばかりだ。
「さて、新婚生活が始まったばかりの君たち夫婦に休暇を取らせないのは可哀想だと思ってね。昨夜はどうだったかね?少しは茜と打ち解けてくれただろうか?」
「はい、茜さんはとても可愛いお嬢さんで楽しい生活を送らせて頂いています。」
「それは何より。それで、茜の母親の件もあることだ。茜には早く後継者となる男子を産んで貰わなければならないが、その期待は出来そうか?」
いきなりその話を振られるとは思わず優也は返事に困ってしまった。